・手帳について
・子どもの教育について
・就労支援について
・障害年金について
手帳について(精神障害者福祉手帳・療育手帳〔名古屋市は「愛護手帳」〕)
トゥレット症は発達障害のひとつですが、発達障害は、現在、「精神障害者保健福祉手帳」交付の対象に含まれています。1級から3級まであります(1級が最も障害が重い)。また、トゥレット症の患者さんで、「療育手帳」をお持ちの方もいらっしゃいます。いずれも、長期にわたって、日常生活または社会生活に障害がある人が対象になります。新規の取得については、心療内科・精神科・神経科で、「精神保健指定医」のいる医療機関に相談されるのがよいと思います。
精神障害者福祉手帳で受けられる主なサ-ビス(2022年12月現在)
・税制上の優遇措置(所得税、相続税で「障害者控除」が受けられるなど)
・公営住宅の障害者優先入居(一般募集とは別に、障害者向けの募集を行う自治体があります。)
・携帯電話料金の割引(ハーティ割引(NTTドコモ)/スマイルハート割引(au)/ハートフレンド割引(ソフトバンク))※基本料金や通話料の割引幅は小さいですが、契約・解約時の各種手数料などが安くなったり免除される場合があります。
・NTT電話番号案内の無料利用(申し込みが必要)
・放送受信料の割引または免除(所得制限あり。相談・申請先はNHKではなく、お住まいの市区町村役場〔福祉課など〕。)
・生活保護を受給されている方は、「障害者加算」がつく場合があります。
・国内線航空・長距離フェリー運賃の割引(おおむね50%程度。大手各社ではほとんど受けられるようになりました。)
※精神障害者福祉手帳ではJRの運賃は割引になりません(療育手帳は等級により割引あり)。
東海地方においては、県や市町村の独自施策として、医療費補助や無料化・交通運賃割引や無料化・公共施設利用料の減免などを実施しているケースがあります。
たとえば名古屋市民の場合、精神障害者福祉手帳「2級」以上が取得できると、
1.医療費が外来・入院(食事負担金・差額ベッド代を除く)を問わず全額無料になります。
2.市内区間の公共交通機関(市バス・地下鉄・JR・名鉄・近鉄・あおなみ線・ゆとりーとライン・名鉄バス・三重交通)運賃がすべて無料になります。
3.市内ほとんどの公共施設の入場料が無料になります(名古屋城・東山動植物園・名古屋港水族館など)。
民間のレジャー、文化施設等でも割引が受けられる箇所が増えています。
東海地方は、全国の他の地域に比べ、独自施策が手厚い自治体が多いようです。(当会代表が以前住んでいたまち(東海地方ではない)には、独自施策はまったく無く、手帳1級所持者であっても医療費は3割負担、交通機関や施設の料金免除、割引もありませんでした。)自治体により内容に違いはあるものの、押しなべてこの地方は、手帳所持による福祉サービスがとても恵まれた地域だと思います。サービスの内容は変わることがあります。最新の情報はお住まいの市区町村役場にお問い合わせください。
子どもの教育について
小学校入学後、それまでは家族との関係が中心だった対人関係は、先生との関わりや、同年代の子どもとの協調性を求められ、一定のカリキュラムのもとでの教育を受けるなど、社会的環境が大きく変化します。チック症状の相談や治療を求めて、医療機関を受診する時期も、就学後のこの時期に集中します。
入学する学校にチック症状やトゥレット症のことを理解してもらうことは大切ですが、焦ることはありません。校長先生、担任の先生と信頼関係を作りつつ、本人や家族も理解を深めながら考えていきましょう。支援が必要な状況があるときに、学校と話し合いながらその都度対応を進めていける関係を作ることが、子どもにとって良い結果をもたらします。
〔小学校低学年〕
チック症状そのものが学校生活への妨げとなることは比較的少ないようです。むしろ、家族にとって、トゥレット症そのものの理解が不十分で、今後の経過などへの不安が高い時期でもあります。
ひとりひとり、チック症状や併存症も異なります。学校でのようすをもとに、何が問題なのかを担任の先生と話し合い、どのような支援が必要なのかを一緒に考えられる関係が大切です。主に保護者に対するガイダンスや心理教育を行ったうえで、チック症状が重症である場合の薬物療法や併存症に対する治療を並行して検討していくことが中心になります。
〔小学校高学年~中学校〕
学習などの課題も増えてくるため、教育環境との調整は大きな課題となります。また、併存する発達障害特性、精神・行動上の問題およびチック症状そのものの程度の高まりから、この時期は学習参加に困難さが高まる時期でもあります。
本人は、自らのチック症状に対する認識はありながらも、理解は不十分であることも多く、主治医から改めて疾患の特性や予測される経過、予後の説明をしていくことも必要です。この時期に自らの症状への理解やある程度慢性的に経過するということの受容ができていることは、社会参加をしていくうえでとても重要です。
授業中やテスト中などの音声チック症状は特に配慮が求められます。症状が悪化した際の避難場所の確保や、別室で試験を受けられるようにするなどの相談を事前にしておくこともよいでしょう。担任を中心とした教師の理解のみならず、クラスメイトの理解を進める工夫も必要です。担任の理解が十分であれば、本人の希望に応じて、担任から児童生徒への説明をすることで理解が進むこともあります。自分から友人に対するチック症状の説明の仕方を具体的に練習しておくなどの対処法を用意しておくことで、不安や緊張の軽減につながります。
〔高校受験にあたって〕
高等学校には全日制、定時制、通信制などがあります。また、普通科、専門学科(農業科、工業科など)、総合学科などにも分かれます。少し前までは、高等学校における発達障害等のある生徒に対する支援体制は、小中学校に比べると遅れ、十分ではありませんでしたが、近年は少しずつながら改善されつつあります。平成30年度から、高等学校でも「通級による指導」が制度化され、特別支援教育への取り組みを進めている学校も全国で増え、支援体制が整ってきています。学校選択の際には、さまざまな情報を得て、慎重に進路先を選択することが大切です。
特別な教育的ニーズを有する子どもが受検するにあたり、テストの様式や、内容、実施の手続きを変更することは「テスト・アコモデーション(Testing Accommodations)」と呼ばれています。合理的配慮の中のひとつです。トゥレット症の方への合理的配慮として、「個室での受験」「座席の配慮」「時間延長」「途中休憩」などが考えられます。高校受験の際、必要な手続きをとれば配慮を受けることができます。受験する際にテスト・アコモデーションを受けるためには、中学校においても定期考査等の際に提供されてきた「配慮」について、個別の指導計画にしっかりと明記され、実行されていたという証明が、試験における「配慮」を受ける際の根拠となり、提供が認められるようになります。
(参考文献:「チック トゥレット症 ハンドブック ~正しい理解と支援のために~」2018年3月 NPO法人日本トゥレット協会)
就労支援について
青年期・成人期には、チックや特有の併発症状は残っていても、大きな問題にはならずに、個性や ”くせ” として受け入れられるようになっていることが大多数です。逆に言うと、チックや併発症状が成人期になっても目立つ場合、周囲から理解を得にくく困難に直面することが少なくありません。チック症状が軽快したにもかかわらず、併発症状・・・トゥレット症を特徴づける強迫性や衝動性に伴う問題が続いていたり、基盤にある発達障害に伴う対人コミュニケーションなどの問題が目立ってきたりするかもしれません。
トゥレット症を抱える方々は、基本的には障害があっても一般の就労と同じように扱われます。ただし、症状の重症度や併発症の有無、本人の希望により、就労形態としてさまざまな選択肢があります。当事者の気持ちや働くことへの意欲と、雇用側の基本的な考えと受け入れ態勢の両方がうまく合っていることが、何より大切です。
・一般就労・・・・・・・・・企業・官公庁など通常の雇用形態。障害者手帳の取得不要。通常レベルの賃金や労働条件が期待できるが、障害を持つゆえの配慮は原則受けられない。
・一般就労(障害者枠)・・・企業・官公庁などで「障害者枠」での就労。障害者手帳が必要。配慮を受けることができるが、賃金は少なめで、非正規雇用(時給制パートなど)の割合が高い。
・福祉的就労・・・・・・・・一般就労が困難な場合。就労継続支援A型(雇用契約を結び、法律上の「最低賃金」以上が支払われる)、B型(雇用契約はなく、月収は非常に少ない)。
障害者雇用促進のために、さまざまな支援の施策があります。支援を受けるために条件があるものもありますが、まずは、お住まいの市区町村を管轄するハローワークを訪ね、総合受付のスタッフに障害を持っていることを伝え、相談にのってもらえるよう頼んでください。全国のハローワークには、一般職業紹介の窓口とは別に、(原則)障害者手帳をお持ちの方を対象にした「専門援助」という部門があります。
また、ハローワークによっては、「精神障害者雇用トータルサポーター」という専門スタッフが在籍しています。精神保健福祉士や臨床心理士の資格を持つ、専門スタッフです。 精神障害(トゥレット症を含む発達障害の方も利用できます)に対する一定の理解があるため、障害特性に応じた求人の紹介、無料の職業訓練の案内、精神障害者が就労で抱えやすい悩みや受けられる支援などの情報提供・アドバイスなどを行っています。もし生活面も含んだ支援が必要な場合は、「障害者職業・生活支援センター」などの紹介もしてもらえます。
(ただし・・・専門援助部門の職員は、身体障害者や知的障害者の支援も担当しています。精神障害者雇用トータルサポーター以外の一般スタッフで、発達障害に詳しい方は、決して多くありません。たいていの場合、トゥレット症の知識はほとんどなく、病名すら知らないことも珍しくなく、説明してもなかなか正確に理解してもらえず、ミスマッチ雇用につながっていることも少なくないと思っていたほうが無難でしょう。)
就労の形態として、先述のようなケースのほかに、自分の得意な分野や個性を生かして、起業したり、芸術・芸能分野で活躍したり、資格を取得して専門性の高い職業に就いていたりする方もいます。自分の得意分野を仕事に生かせることが一番でしょうが、実際にはなかなかそうはいかないのが現実です。さまざまな福祉的サービスがありますので、お住まいの地域の相談窓口に足を運ぶことから始めるとよいでしょう。トゥレット症の知識がなくても、何度も足を運んで顔を覚えてもらうことで、親身になって相談にのってくれたり、利用者思いで勉強熱心な職員の方に巡り会えるかもしれません。
〔就労にあたって配慮すべきこと〕
運動チックや音声チックなど、周囲の人がすぐにわかるような症状は、その辛さが伝わりやすいかもしれませんが、前駆衝動や併存症など、目に見えない辛さは、なかなか理解してもらえないこともあります。就労にあたっては、そのような「見えない辛さ」について、あらかじめ採用担当者、上司に相談したほうが周りの理解につながることにつながり、配慮や支援を受けやすくなります。
一方、障害やさまざまな症状ばかりに目を向けるのではなく、自分の得意な分野、能力、”ここが頑張れる” ”これが得意だ” といった点をアピールしてプラス面を強調することで、マイナスイメージを払拭できる場合もあります。いずれにせよ、当事者が職場の温かい配慮の中で力を発揮できるように、自分の状態に素直に向き合っていくことも大切だと思います。症状や状態は常に変化するので、仕事への影響も少なからずあります。良い時も悪い時もあることを理解してもらい、長く勤めていけるように、理解を深めていってもらう働きかけが何より必要です。
事業主の方々、相談機関にお願いしたいこと
1.トゥレット症について正しく理解してほしい・・・主症状の運動チックと音声チックは不随意運動です。自分で抑制できるものではありません。また、症状には波があります。
2.通院・治療に関しての配慮・・・通院に対する配慮、また、必要に応じて主治医との連携も図ってください。
3.通勤や勤務時間の配慮・・・チック症状が強いとき、特にラッシュ時の公共交通機関を使った通勤は困難になります。通勤や勤務時間など考慮いただけるとありがたいです。
4.休憩時間などの配慮・・・チック症状が強く出ている時や、集団の中で抑制しようとした時などは、疲れてしまったり、集中力が途切れてしまったりします。状況に応じた休憩の配慮や工夫をお願いします。
5.職場での人間関係やアクシデントへの配慮・・・トゥレット症について知らない人にとっては、チック症状をわざとやっているのではないかと誤解してしまうことがあります。本人の意志も尊重しながら、この症状への共通理解を図ってください。また、運動・音声チックの出方によってはアクシデントが起きることがあります。可能であれば事前の事前の環境調整をお願いします。
(参考文献:「チック トゥレット症 ハンドブック ~正しい理解と支援のために~」2018年3月 NPO法人日本トゥレット協会)
障害年金について
障害年金 (※ 「障害者年金」と覚え間違いしている方がいらっしゃいますが、正しくは「障害年金」と言います)は、病気やけがによって生活や仕事などが制限されるようになった場合に、現役世代の方も含めて受け取ることができる年金です。
障害年金には「障害基礎年金」「障害厚生年金」があり、病気やけがで初めて医師の診療を受けたときに国民年金に加入していた場合は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた場合は「障害厚生年金」が請求できます。また、障害年金を受け取るには、年金の納付状況などの条件が設けられています。
- 障害等級 1級
他人の介助を受けなければ自分の身の回りのことができない程度 - 障害等級 2級
必ずしも他人の助けを借りる必要はないが、日常生活は極めて困難で労働により収入を得ることができない程度 - 障害等級 3級
労働が著しい制限を受けるか又は労働に著しい制限を加えることを必要とする程度 - 障害手当金
傷病が治ったものであって、労働が制限を受けるか又は労働に制限を加えることを必要とする程度
トゥレット症も障害年金の対象となっています。医師向けの「診断書記載要領」には、
「トゥレット症候群やチック障害特有の症状等により、日常生活に著しい困難が生じている場合には、その症状や程度、頻度をできるだけ詳しく記載してください。」
との記述があります。
主治医の先生に障害年金用診断書作成を依頼するにあたっては、先生に、幼少の頃から現在までの症状の経過、日常生活の困難さ、「生きづらさ」を、可能な限り聞いていただくことが、スムーズに診断書を作成していただくポイントとなります。診断書の作成に協力的な先生が多くいらっしゃる一方で、診察時間の制約や作成の手間などから、作成に及び腰になる先生がいるのも現実です。診断書作成に理解があり、よく話を聞いてくれる先生にたどりつくには大変な労力を伴いますが、障害年金を請求し、無事に受給できるか否かで、その後の人生設計が大きく影響されることがあります。薬をもらうだけならともかく、障害年金の請求では医師との相性は大切だと思います。どうしても主治医が非協力的で診断書を書いてもらえない、症状の程度に対して明らかに軽い内容の診断書しか書いてもらえない、と言ったときには、ためらわずに主治医を変える、専門家(障害年金請求を得意とする社会保険労務士)に相談する、といった手段も必要かもしれません。
障害年金については多くのWebサイトでも解説されていますが、内容が難しく、また障害の内容は患者さんによって千差万別で、理解するのがなかなか大変かと思います。詳細については、実際にトゥレット症と併存症で障害年金を受給したことのある、当会代表によって、アドバイス程度のお話ならさせていただくことが可能です(連絡先は「お問い合わせ」をご覧ください)。